「メッセンジャーを撃つな」 – その心は?

By: Mr. Russell Ellwanger,  タワージャズCEO & TPSCo会長  |  January 23, 2019 

ことわざの中には現代の言葉として普通に使われるようになっているものがいくつかあります。  次の3つは最近私が気づいたものです。

  • 自分が知らないことでは心は痛まない(知らぬが仏)
  • 壊れていないものを下手に直すな(触らぬ神に祟りなし)
  • メッセンジャーを撃つな(悪い知らせを伝える人を責めてはいけない)  

これら3つのことわざには多かれ少なかれ真実が含まれているでしょう。  しかしより広い意味で捉えると、どれもあまりよろしくない行動を正当化するのに使われる可能性がある「誤った考え」が内在しています。そのような状況に陥る前に以下のように考えてみましょう。

 

自分が知らないことでは心は痛まない(知らぬが仏)

無知は破滅につながる、「その破滅と書かれた文字を消さない限り」(1) 、とはディケンズはうまく表現したものです。私生活でも仕事でも、学ぶべきだったのに学ばなかったことや得るべきだったのに得なかった良識への対価が支払われることになります。例えば親が子どもの長所短所を学ばなければ、子どもの

成功や達成の可能性をサポートし、指導し、その確率を最大化する力は著しく損なわれてしまいます。 同様に、顧客のニーズを学ぶことができない、あるいは学ばないビジネスは持続可能な業績をもたらすソリューションを生み出すことができません。 

「リーダーシップと学びは互いに切り離せないものだ」と言ったのはジョン・F・ケネディです。(2)  ケネディの定義によればビジネスでも政治でも私生活でも、リーダーであるためにはまず自分が仕える相手のニーズを学ばなければなりません。  ビジネスリーダーは顧客や従業員が成功するために何を必要としているかを知る必要があります。それは子どもが必要としているものを親が知っていなければならないのと同じです。また、リーダーとは、たとえ離れた場所にいる時も「物理的に」存在していなければなりません。進化し変化するニーズや課題に気づき、それらを査定・評価できるよう常に理解を示し、同じ立場で考えることでそれが可能です。

ニーズを知らなければチャンスを逃し、結果として勝利するための力も逃してしまうかもしれません。 設計し実行する能力とツールとともに、他人の気持ちを推し量り共感する心と気持ちの余裕を持つことが、ニーズを理解し、実行可能な結果を伴う付加価値のあるソリューションを作り出すための鍵になるのです。

 

壊れていないものを下手に直すな(触らぬ神に祟りなし)

この言葉は良さそうに聞こえますし、場合によっては正しいかもしれません。例えば、自分が生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのでなければリスクの高い医療処置は避けるのが賢明でしょう。つまりこれは判断の問題です。リスクか報酬か、あるいは報酬か報酬を実現するための投資かなど、自分なりに計算したうえで判断するものです。 

しかし、実存主義的生物学の視点はさておき、もし完璧主義者の目を通じて世界を見ればすべてが壊れていることがすぐに分かります。だとすれば、 「壊れていないものを下手に直すなと」いう世間でよく使われることわざには、たいてい凡庸であることを強く求める意味合いがあるのではないでしょうか。

「知らぬが仏」の状態を乗り越える重要性や必要性を認識する企業は、どの活動が改善を必要としているかについて常に顧客から意見を聞くものです。卓越性の真の追求にはどの活動や特性、プロセス、製品、研究を改善すべきかについて絶えず内省し、それをもとにターゲットを定めて継続的な前進のために必要な投資(資金、時間と努力、あるいはその両方)をしなければなりません。

 

メッセンジャーを撃つな(悪い知らせを伝える人を責めてはいけない)

「メッセンジャー」に本質的な価値はあるでしょうか? いいえ、まったくありません。問題の責任を放棄するようなメッセンジャーは要りません。必要なのは積極的に問題を解決できる人です。「私は単なるメッセンジャーです。私を責めないでください」と言うのは人間の弱さの最も根幹的な部分に対する言い訳です。ロバート・ケネディはこうした行動を無益であることの危険性として言及しています。つまり「ひとりの人間の力では世界に蔓延する悪に対して何もできない」(3)と思い込むのは危険であるということです 。しかし「メッセンジャーを撃つな」はそれよりもさらに根本的なものです。どういうことでしょうか? この言葉は無益さを正当化しようとするものだからです。さらに、正当化するだけでなく称賛すらしようというのです!

良き企業は従業員に状況を改善するためのツールや発言権を与えます。そうした環境では、メッセンジャーは企業の維持や成長に必要なリソースを消費するだけです。問題をただ他の人の机の上に投げ出して何らかの可能性のある解決策を提案しない人は、貢献するメンバーになろうという能力も姿勢も持たない人です。無策は人から人へ広がるものです。そしてこの人生がもたらす最も貴重な産物、つまり「時間」を無駄にします。無益さに取り憑かれる個人や企業は、簡単にそうした環境の犠牲者になってしまうのです。  そうです、メッセンジャーを生み出す態度や行動はやめましょう。

 

オーナーシップとアカウンタビリティ

こうして考えると、すべてではないにしろ、シンプルなことわざには豊かな生活のための2つの重要な成功要因、すなわちオーナーシップとアカウンタビリティに反するものが多いのです。  知識やスキル、根底に成長型マインドセットを持つ人や企業は完全なオーナーシップと個人のアカウンタビリティに反する行動を許しません。そして、こうした「信念」が価値創造の長期的なテーマを生み出すのです。

企業としては、私たちは継続的な改善に集中しようという心構えを持ち、お客様、サプライヤー、株主の皆さんにとって価値あるパートナーになれるよう努力します。個人としては、何をするにもあらゆる形で価値を付加していくことに主眼を置くべきでしょう。

(1) チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』より
(2) ジョン・F・ケネディが1963年にテキサス州ダラスで行う予定だった演説より
(3) ロバート・ケネディの1966年の南アフリカ・ケープタウンでの演説『Speech of Affirmation』より

Mr. Russell Ellwanger

タワージャズ CEO & TPSCo会長

2005年5月にタワージャズの最高経営責任者(CEO)に就任、タワーセミコンダクターUSA、タワーUSホールディングス、ジャズUSホールディングス、ジャズセミコンダクター、パナソニック・タワージャズ セミコンダクター、タワージャズテキサスの取締役会会長も兼務している。

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